一瞬だ この一瞬で勝負は決定する 青年は額から流れる汗を拭おうともせず、汗は顔の輪郭にそって流れてゆく 両手に構えた大剣を固く握り締め、目の前に対峙する脅威から視線を外さない その脅威も同様だった 鋭い眼は絶えずこちらを凝視し、様子を窺っている 口からは微量ながらも炎を吐き、いつでも突撃できるように姿勢を屈めている 静かだった ただ、異常とも思える静かさだった 巨大な脅威に対峙する人間 通常ならばどちらかが奇声を上げ、そこは大地の悲鳴で阿鼻叫喚となっているだろう それほどまでにその場は静かだった 葉っぱの擦れ合う音、水の流れる音までもが聞き取れる まるで脅威と人間がその場に不釣合いのようだった 青年の右目が不意に閉じられた 流れてきた汗が目に入り込んでしまったのだ 青年は目を拭おうとするが、その隙を脅威が見逃すはずがなかった 『ゴオォォォォォォォォォォォッッ!!』 まるで火山の噴火のような音をその喉から発しながら青年へと突撃してきた 青年はすぐに自分の左側へと前転し、脅威の突撃をギリギリ回避する そしてすぐさま大剣をしまい、体勢を立て直し脅威へと向かう 突撃の勢いが強すぎたのか、脅威は地面に滑り込んでしまいもがいている そこへ走ってきた青年は脅威の後ろ足あたりで立ち止まり、両手を背中にかけた大剣にあてる 脅威がまだ立ち上がれないのを横目で確認すると、目の前の不規則に動く禍々しい尻尾へ 渾身の力を込めて、真っ直ぐに振り下ろした 『ッッガアァァァァァァァァァァァァァッッッ!!』 脅威の悲鳴が辺りに反響する 青年の振り下ろした大剣は尻尾にこそ当たったものの、切断するまでは至らなかった それを確認した青年は振り下ろした大剣を身体の後ろ側へと右足と一緒に移動させる そして大剣の重みに負けぬよう握り締め、歯を食いしばり 先ほどの斬りそこなった場所、その部位めがけ 今度はその大剣を斬り上げた 『ギャァァァァァァァァァァァァッッァァァ!!』 大剣は正確にその場所へと導かれ、脅威の尻尾を切断させた 脅威はやっとのことで起き上がり、怒声を上げる 青年は慌てて大剣を構えようとするが、先ほどの攻撃で地面に深く食い込んでしまい大剣が 構えられないでいた 脅威は青年を鋭い眼で捉え、その口からは真紅の炎が溢れる 大剣と格闘している青年はそれに気付き思考を巡らせる そうしている間にも、脅威の口からはおびただしい量の炎が舞い上がる 足を固定し、どうだといわんばかりに首を上げ、灼熱の炎弾を吐き出した 炎弾は移動しながら地面を薙ぎ払い、空気を焦がす 途端、轟音が鳴る 炎弾が目標へと衝突した音だった 地面に生えていた草花は炭と化し、ちりちりと音をたてる 脅威はそこにある青年の姿を確認しようとするが、発生した煙に遮られよく見えない 煙を晴らす為に自慢の翼を前後にはばたかせ突風を送る ようやく見えたその場所にいたものは確かに炎弾の直撃をうけていた ただし 地面に食い込んでいるままの大剣だけが、黒く焦げていた 脅威は眼を見開きせわしく辺りを見渡し、青年を探す 青年は大剣の場所から少し離れた所に何をしているのかうずくまっていた 脅威は見つけた事に歓喜し、雄叫びをあげる そしていざ突撃しようと足を踏み出した瞬間、青年は振り向き、真上に向かい何かを投げてきた 脅威は不覚にも立ち止まりそれを眼で追ってしまった 投げられた何かはゆっくりと脅威に向かい、ちょうど中ほどの距離でその姿を変化させた 何かは爆ぜ、そこからは目もくらむほどの閃光 閃光を直視してしまった脅威はあまりの光に眼を閉じ、暴れだす 怒声を上げ、その足は大地を蹂躙し、その顎で所かまわずかみつく その脅威を尻目に青年は食い込んでいた大剣へと走り出す ほどなくして徐々に眼が慣れてきたのか、脅威はおとなしくなっていた うっすら眼を開くと、青年は先ほど光る物を投げてきた所とさほど変わらない位置にいた ただ違うのはその両手に握り締められている大剣 それを、青年は脅威を見据えながら構えていた しかしこの脅威とて学習することは出来る 滑り込んでしまったときの二の舞にならないように、突撃ではなく炎弾の準備をする それをさとった青年は構えを解き、剣の腹が前にくるようにかざした そして放たれる炎弾 それは青年へと続く軌道を真っ直ぐ進み、かざした剣に直撃した さすがに大剣の厚みがあるぶん、青年のダメージは少ない が、炎弾の衝撃と熱は容赦なく青年を襲う だが何を考えているのか青年は一歩も動かない 脅威は動かない標的に警戒してか、次々に炎弾を放ち続けた 炎弾を何発も食らい、もうもうと煙をあげるが、それでも動かなかった いい加減苛苛してきた脅威は怒声をあげる そしてついに、青年へと突撃してきた それを確認した青年は迎え撃つつもりなのか大剣を構え攻撃にそなえる 脅威は空間をその雄叫びで震わせながら地面をえぐり、突進する 青年にその体躯がぶつかるまで、あと少し あと、少しだった 驚愕した もうあと標的が目の前という所で、身体に浮遊感を感じた 見れば地面に大きな穴が空いており、すっぽりとその中に脅威の身体が納まっていた 脅威は急いで抜け出そうとするが、すでに遅かったようだ 目の前には大剣を、今にも振り下ろそうとしている青年 そしてそれは無残にも、脅威の頭蓋に叩き降ろされる これは、狩りの時代を力強く生きる 動物と 昆虫と 龍と ハンターの物語である